医療統計学を学ぶ大学生のブログ

医療統計学、因果推論を専攻しています。R, SASユーザーです。

リスクとオッズ

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(Image by DarkoStojanovic from Pixabay)

 

今回は、医学や統計の分野でしばしば目にする「リスク」と「オッズ」を取り上げます。またその前提としての理解が必要な割合、比、率の違いについても触れていきます。

一般に使われている意味と、定義としての意味が異なる部分があるので、その点はあらかじめご理解の上、一読いただければ幸いです。

 

 

  

割合、率、比

このあたりの言葉を意識して使い分けをしている方はそれほどいらっしゃらないかと思いますが、医療や疫学といった分野ではその定義が厳密にされています。

 

割合(Proportion)

割合は、ある部分集団がその全体集団に占める大きさを意味しています。つまり、分子にくる特定の集団は分母にも含まれている必要があります。

Ex)日本国民における男性の割合

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分母と分子の単位(上の例では人)が一致し計算過程でキャンセルされるので、割合は無単位になります。また当然のことですが、0〜1の範囲をとり、百分率(%)表示されることも多いです。

 

余談ですが、医学分野で使われている指標の一つに  「有病率」というものがあります。

有病率は、ある時点で特定の病気を有している人の、調査対象人数にしめる大きさとして定義がなされているので、これは”率”と名前についていますが、正確には割合の一種です。(ややこしい…)

 

率(Rate)

率は、単位時間あたりのイベントの発生(発症など)の頻度としての指標です。個人的には、割合と率の使い分けが一番悩むところかと思いますが、最も大きな違いは”時間”という概念が含まれているかどうかという点だと思います。

 

先程の割合は、0(分子が分母に含まれていない)〜1(分子と分母が一致)までの大きさをとりますが、率はその定義から0〜∞の範囲をとります。「率」は観察時間の中でイベントが発生しない場合には0になり、現実にはありえないですが、イベントが永遠に起こり続ければ、∞をとるということです。

 

比(Ratio)

比は、互いに相手を含まない(含む場合は割合)ものを分数の形にしたものです。つまり、一方のもう一方に対する大きさを示しており、相対的な指標になります。後ほど取り上げるオッズというものも、比の一つです。

Ex)オッズ

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リスクとオッズ

 

リスク

リスクとは、ある集団において一定期間に特定のイベントを発生した人の割合を意味しており、医学分野におけるイベントとは病気や怪我であることが多いため、riskの直訳である、「危険」や「危機」といった言葉通りのイメージかと思います。

 

リスクのさらに数学的な定義は以下の通りです。

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(外出によるリスク) = a / (a+b) 

(在宅によるリスク) = c / (c+d)

  

リスク差

リスク差はそれぞれのリスクの差で表され、絶対リスク(AR: Absolute risk)と同義です。上記の表を利用すると、リスク差は次のように計算されます。

(リスク差)= (外出でのリスク)-(在宅でのリスク)

                      = {a/(a+b)}  - {c/(c+d)}

 

リスク比

リスク比(RR: Relative risk)はそれぞれのリスクの比として表されます。

(リスク比)= (外出によるリスク)/(在宅によるリスク)

                      = {a/(a+b)}  / {c/(c+d)}

 

リスク差、リスク比の解釈

リスクの利用はその解釈がしやすいところに、最大のメリットがあります。先程の例ではa,b,c,dといったアルファベットで埋められていたところを数字に置き換えてその解釈を考えてみます。

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この場合のリスク差、リスク比、またその解釈は以下の通りです。

 

(リスク差) = 0.3 – 0.05

                       = 0.25 

→外出によって疾病のリスクは25%増加する

 (外出によって罹患者は人口100人あたり25人増加)

 

(リスク比)= 0.3 / 0.05

                      = 6

→外出によって罹患は6倍になる

 

リスク差は、ある要因によって(外出)によってイベント(疾病)を発生させる人が、何人増減するのかということを意味している指標になります。この増減する人数、つまり絶対数が算出可能であることが、絶対リスクの名前の由来にもなっています。

それに対し、リスク比はある要因によって(外出)によってイベント(疾病)の発生が何倍になるのかという相対的な評価指標になります。

 

※ただしこの研究で得られたリスク因子による影響を、一般的なものとして取り扱うためにはサンプリングによって研究集団が全体集団を代表していることなどを保証してあげないといけないかなと思いますが、今回は省略します。


オッズ

オッズという言葉は競馬やギャンブルといった賭け事でよく聞かれるかと思いますが、医療分野でも非常によく使われています。

 

オッズは各群でのイベントの起こりやすさを示している指標であり、そしてそのオッズ比は比較した群の間で、そのイベントの発生が異なるかどうかを示した相対的な指標です。そして医療分野においては、その比であるオッズ比が使われることがしばしばあります。

 

イベントの発生確率をpとすると、

(外出群でのオッズ) = p / (1-p)

                                       = a / b

∵ p = a / (a+b)

  (1-p) = b / (a+b)

 

オッズ比(RR: Relative risk)はそれぞれのオッズの比として表されます。

(オッズ比)= (外出群のオッズ)/(在宅群のオッズ)

                      = (a/b)  / (c/d)

 

オッズの理解を阻むポイントとしては、その解釈のしにくさにあります。先程のリスク差、リスク比では、計算した値を用いて、〇〇倍になったなどと解釈可能でしたがオッズ比ではそういったことはできません。オッズ比として計算される値の大きさにはリスクの時のような意味はなく、1であるか否かに興味があります。今回の例であれば次のように解釈が可能です。

 

(オッズ比)  < 1 →外出した群の方が疾病を発症していない

(オッズ比 ) = 1 →どちらの群も疾病発症の割合は同じ

(オッズ比 ) > 1 →外出した群の方が疾病を発症している

 

 

まとめると、オッズ比で言えることはあくまで、片方の群に対してもう一方の群でイベントが発生しやすいということになります。つまり、群の違いとなる因子がイベントの発生に関連があるということを示しているということです。

 

また、

(オッズ) = p / (1-p)

ここでp→0とすると、(1-p)→1になることから、 

 (オッズ) = p 

                    = a / (a+b)

希少疾患のようなイベントが起こる確率が極めて低い場合には、オッズはリスクの近似になります。 

 

 

 観察研究と実験研究での利用

医学・薬学研究は観察研究と実験研究の2つに大きく分けられ、観察研究ではオッズ比が、実験研究ではリスク差、比が使われます。「オッズは使わず、リスクだけ求めればいいのではないか?」というのが、ここまで読んでいただいた方が湧く当然の疑問かと思います。しかし、この疑問への回答はNOです。 

より正確に述べるのであれば、観察研究でも解釈の観点からリスクを使った方がよいが、その研究方法の特性上、意味のない値となってしまうためリスクではなく、オッズが使われているということです。 

 

先程の図とともにこのことを解説します。

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実験研究の場合、初めに介入対象、比較対象となる集団が決定されます。つまり上記の図中の(a+b)、(c+d)が決定されるわけです。リスクはその数式からもわかるようにそれぞれの群(集団)の人数に依存しますが、研究の特性上ここの人数が固定されるため意味のある値になります。

もし仮にどちらかの群の人数を2倍にしても、集団の中での発生確率は一定(リスクが一定)であるため、リスク差やリスク比は同じ値をとり続けます。

(変更前のリスク比) = {2a/2(a+b)}  / {c/(c+d)}

(変更後のリスク比) = {a/(a+b)}  / {c/(c+d)}

 

 

リスクの計算で問題となるのは観察研究の場合です。観察研究では実験研究のように、それぞれの群(集団)の人数を決めるのではなく、疾患の希少性などを考えた上で、その疾患を持つ(イベントを発生させた)人をベースとし研究を開始します。 つまり、a、bの人数を先に決めて研究を開始しているわけです。

仮にイベントを発生させた人数のみ2倍にしたとしましょう(2倍の罹患者のデータを集めることができた)。そうすると元のリスク比と、人数変更後のリスク比は

(変更前のリスク比) = {a/(a+b)}  / {c/(c+d)}

(変更後のリスク比) = {2a/(2a+b)}  / {2c/(2c+d)}

となり、異なる値をとってしまいます。これが意味のない値という意味です。

 

これに対してオッズ比を利用すると、

(変更前のオッズ比) = (a/b)  / (c/d)

(変更後のオッズ比) = (2a/+b)  / (2c/d)

                                      = (a/b)  / (c/d)

となり、同じ値をとります。こういった数学的な理由があるので、観察研究ではオッズ比が利用されているわけです。