生物統計学を学ぶ大学院生のブログ

統計的因果推論、生物統計学、R・SASの実装方法について更新

確率母関数、積率母関数、特性関数

 母関数についての簡単なまとめです。確率や収束範囲に関しての厳密な議論は行っていませんので、その点については参考書籍をご参照ください。

参考書籍

  • 竹村彰通 『現代数理統計学』 学術図書出版

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  • 野田一雄・宮岡悦良 『入門・演習数理統計』 共立出版株式会社

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母関数

(数理)統計学ではしばしば登場する母関数を利用するメリットとして、母関数と確率分布の1対1対応性が挙げられます。統計学では特定の確率分布の期待値や分散などに注目することも多く、母関数もそれらの値を求める際に用いられることがあります。母関数として利用されるものには以下の3つがあります。

  1. 確率母関数
  2. 積率(モーメント)母関数
  3. 特性関数

ここで母関数が確率分布と1対1対応するのは次のようなためです。

  • 確率(密度)関数→母関数
    • 各母関数の定義より明らか(後述)
  • 母関数→確率(密度)関数
    • 逆転公式(母関数から確率関数、密度関数を求める公式)の存在による
    • 積率母関数、特性関数の逆転公式は結構複雑なため注意

 

確率母関数

確率母関数G(t)は、主に二項分布やポアソン分布といった非負(≧0)の整数値をとる離散型確率変数の確率分布に対して用いられます。

G(t)は確率関数をp(t)とすると、

と定義されます。なお、期待値の収束条件より|t|≦1です。

 

確率母関数を用いた期待値、分散の導出は以下の通り。

後述する積率母関数含め、統計検定等では母関数を用いた期待値・分散の導出は頻出です。

 

積率母関数

 確率母関数では扱う確率変数が非負の離散値であったのに対し、一般に積率(モーメント)母関数Φ(θ)は連続型の確率変数について用いられます。確率母関数におけるs=e^θとしたものが積率母関数に当たります。(θ≦1

ここでe^{θX}についてマクローリン展開を行うと、

となることから、期待値は

となります。つまり、積率母関数をk階微分θ=0とすることでXのk次の積率を得ることで可能です。ここで、積率母関数をk階微分して得られる期待値を階乗モーメントと呼びます。これを利用して期待値・分散の導出したのが下記になります。

なお、積率母関数の存在(E[e^θX]<∞)が問題となりますが、今回は存在する(収束する)という仮定の下で式展開を行っています。

 

特性関数

前述のように積率母関数積分の収束の問題があり、積率母関数が存在しない分布もあります(e.g., コーシー分布)。それに対し、特性関数Φ(t)はすべての分布に対し存在し、最も一般性が高い母関数とみることが可能です。特性関数Φ(t)は、積率母関数において虚数単位iを用いてθ=itと置いたものです。

二つ目の等号はX→tXし、オイラーの公式より導かれます。定義上は実数部分と虚数部分に分かれますが、itを定数とみて積率母関数と同様に微分を行い、t=0とおくことでk次モーメントを算出することができます。